六月の憂鬱




6月は憂鬱で、生気を奪う。

一向に重い腰を上げようとしない梅雨前線は、今日も東京の空から太陽を隠し続けている。

「なあ、余」

覇気のない声で呼びかけた終が、ごろりと寝返りを打った。

初等科3年のクラスは今日は5時間授業で、宿題もない。

家に帰ってもまだ3時を回ったばかりで、手持ち無沙汰なこの8歳児は、寝そべってぼんやりと外を眺めていたのである。

「なーに、終にいさん」

二つ年下の末弟は、となりのテーブルで、宿題の「けいさんプリント」をせっせと仕上げにかかっている。

側にはまだつやつやとした光沢の初々しい、学校指定のランドセルが無造作に投げ出され、3〜4冊の教科書がなだれを起こしていた。

「しゅくだい、終わったか?」

「うーん、あと一問。15たす38ってなんだっけ??」

「…53だろ」

十の位にいち繰り上がって…などと悩んでいる余に、終が声を投げる。

「そうなの?ありがと」

素直に喜んだかと思えば、用心深いこの弟は53から38を引く計算にまた悩みだした。

すぐ上の兄との6年間の付き合いの経験からか、はたまた長兄の教育の成果か。


「できた!しゅくだい終わり!」

元気よく声を上げた余だったが、窓の外を見た次の瞬間、沈んだ声を漏らす。

「あめ…まだやまないの?」

「ああ」

「お外であそべないね」

「ああ」

太陽はもう4日もご無沙汰で、乾いた地面は既に1週間以上もご無沙汰だ。

竜堂家の子供らしく本好きの二人が、一日や二日の間を家でじっと過ごすのはそう難しいことではないのだが、さすがにこうも室内に閉じこめられる日が続いては、めいっぱい走り回りたいという、子供らしい衝動も抑えがたい。

「あーあ、サッカーしたいなー。」

大の字に広げた小さな体をばたばたさせながら終が叫ぶ。

「それは運動場じゃないと無理だよ」

「このさいボール遊びならなんでもいいぜ?」




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