六月の憂鬱



「ぼくも!ボールあそびしたい!!」

きらきらと目を輝かせる余に、終は「よし、それじゃあ…」と言いかけて止めた。

「…ダメだ。おしおきはゴメンだからな。」

終の頭には、威厳たっぷりの長兄の言いつけが鮮明に浮かんでいた。

家の中での追いかけっことボール遊びは禁止。

元々、並みの小学生らしからぬエネルギーを持て余しては、それを小出しに、いや時にはかなり派手に発散させている二人であるから、そんな言いつけは常日頃から諭されている。

そしてそれを常日頃から破っては長兄の雷と、時には愛の鞭を受けてはいても、兄に叱られるだろうな、などということは考える前に行動に移してしまうのがこれまた常日頃のことであるのが終である。

が、その終が今、珍しく思いとどまったのはひとえに、わずか2日前に長兄に釘を刺されていたからだ。

『いいか?いつも言っているが絶対に家の中で暴れるなよ。これは言いつけだ』

家長が殊更に「これは言いつけだ」とまで駄目押ししている時はマズイ。

破った日にはそれはもう、大変なことになると決まっている。

「おしおき」の言葉に一瞬たじろいだ余だったが、突然、名案だとばかりに目を輝かせた。

「でもさあ、始にいさん、今日帰りおそいよ?」

「あぁ?」

長兄の怖い顔を想像してびくついていた終の反応は鈍い。

「始にいさん、今日はほしゅうがあるから6時過ぎないとかえってこないって!あさ、続にいさんに言ってた!」

「ホントか?おれは聞いてないぜ。」

「終にいさんはまだ寝てたじゃない」

確かに今日も終は、かなりギリギリの時間に起きた。

食卓に下りてきた頃には、余が、朝食を作る続の手伝いをしていたのを覚えている。

大方、終が起きてくる前に始が言ったのを聞いたのだろう。

しかし、お仕置きを受けた経験が余よりも圧倒的に多いからか、終は少しばかり慎重に思案する。

そこへ余が追い討ちをかけるように言った。

「大丈夫だよ。バレなければいいと思わない?」



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