六月の憂鬱



午後4時半。垂れ込める雨雲に遮られた太陽は、どちらにしろもう沈みかけていて辺りは薄暗い。

降りしきる雨の中、若干16歳の若き家長、竜堂始は共和学院の校門を後にした。

この日、高等科では古典担当教師が休みのため、選択補習授業が中止になったからである。

「足から肩からびしょ濡れだ」

あまりに強い雨から傘が守ってくれるのは頭だけで、180cmを超える始の長身を包む制服は、水気を含んで既に重い。

黙々と歩きながら、始の脳裏に浮かんできたのは家で待っている弟達のことだった。

おとなしくしているだろうか。

このところ続いている雨は、彼らに、ことに年少組にストレスを強いていることは分かっているのだ。

「家の中で暴れるな」という家長の厳命を守っておとなしく本を読んでいる殊勝な二人の姿を思い出すと、つい笑みがこぼれる。

「ご褒美のひとつでも買っていくかな…」

濡れてすっかり色の変わってしまった通学カバンを抱えなおし、始はさらに歩調を速めた。


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ドタバタというけたたましい足音と共に、子どもの荒い息遣い。

「あ、このやろー、余!」

「あっ!もうっ、終にいさん、ちょっと待った!」

ダンダンダンダンッ、と小さなドッジボールを弾きながら、台風小僧が約2名、竜堂家の広い廊下で台風を起こしている。

どうやらバスケットボールもどきでもやっているらしい。

「うお…っと!」

余のドリブルからボールを奪おうとして終が足を滑らせた。湿気で滑りやすくなった廊下に足を取られたのだ。

ボールはそのままコロコロと玄関へ転がっていく。

「イテテテテ…」

びたーんっ、とうつ伏せにこけた姿勢のまま顔を上げて、転がっていくボールを目で追うと、そのまま玄関のたたきに転がり落ちるはずのボールを、さっと拾い上げる手があった。

「ずいぶんといい汗をかいてるじゃないか、終?」

「は…はじめ兄貴…!」

その瞬間、終の背中を伝う汗は一気に冷たくなった。




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