六月の憂鬱


「全く!家の中で暴れるなとあれほど言っておいただろう!」

3分後のリビングで。

びしょ濡れの学生服を着替えてきた始は、汗だけで始と似たような格好になってしまっていた二人を、とりあえず着替えさせることにした。

汗だくのシャツをテキパキと脱がされ、小さな身体をゴシゴシとタオルで拭かれながら、年少組は無言だ。

「湿気で家の中は滑りやすくなってるし、壁を壊しでもしたらどうするつもりなんだ!?」

転んでケガでもしたら、でないところが竜堂家である。

竜堂家の人間と壁がぶつかった場合、負けるのは壁だと相場が決まっているからだ。

「おまけに家の中でボール遊びをすればどうなるかくらい分かるだろう?あそこにあるのは何だ?」

「まど…」

「あっちにあるのは?」

「花瓶」

「そうだ。ボールが飛んでいったら窓も花瓶も割れるかもしれないよな。物を粗末にするのはいいことか?」

「わるいこと…」

「そうだ。二人ともちゃんと分かってるじゃないか」

着替えを完了させた二人の肩に手を置いて、口調は落ち着かせつつもしっかりと厳しい目をしてみせる。

「悪い子だな」

二人ともうつむいたまま、しゅんとして顔を上げることができない。

「それじゃ、覚悟はいいな。終から行こうか。」

「え゛…」

硬直している終の手を引く。

引いた腕の力にわずかな抵抗は感じたが、悪かったことを自覚しているからか、弟も見ている手前からか、比較的素直に膝の上に身体を預けた終が、始は何だか可愛く感じた。

「しっかり反省しろよ」

背中に降ってくる一言とともにズボンとパンツが一気に下ろされて、手を振り上げる気配。終はキュッと身を硬くする。

ーバシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

「…っ!ふぇ…」

歯を食いしばって耐えているらしい。

声を漏らさないように全力で耐えているのが分かる。

「終は前にも同じことで叩いただろうが。同じ事で何度も叱られるんじゃない!いい加減学習しろ!」

ーバシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

重ねて握り締めた自分の腕に爪を立てて、息を詰めながら耐えてもさらに降り注ぐ平手。

泣くまいと必死になっても、終わる気配のないお仕置きについ、本音がこぼれた。

「だって…っ!今日兄貴、帰りおそいんじゃなかったのかよーっ!」

ーバシーンッ!!

「バレなければいいとでも思ったか!」

さらにキツイ平手に終の身体が一瞬、反る。

ーバシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

「ふぇ…っ、あにき…お願い!もう許して…ほんとに…ごめんなさい」

ひとしきり叩かれて、健気に耐えようとしていた努力も吹き飛び、終はもはや涙が止まらない。

小さく引き締まったお尻全体を真っ赤に染め上げたところで、始は手を止めた。

ひっくひっくと泣いている終の脇を抱えて起こしてやり、そっとズボンをはかせてやる。

「よく頑張った。もういいよ、終」

胸にぎゅっとしがみついて泣き顔を押し付けてきた終を、始は一度だけ強く抱きしめ返した。

「余はっ…っく…あんまりっ…厳しく…しないでやって」

まだ涙の止まらないままにしゃくりあげながら、そう小さく言った終の背中をぽんぽんと叩いて、始はつい苦笑したくなるのをこらえた。

まだ自分のお尻が痛くてたまらないだろうに、こういう所は弟思いなのだ。

「弟思いなのは結構なことだが…」と小さく呟いて、終を抱きかかえ、ソファにうつ伏せにする。



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